読書感想文

読んだ本の感想を書きます。

「対岸の家事」を読んで専業主婦に対しての考え方が少し変わった

「わたし、定時で帰ります」の作者朱野帰子さんの作品の「対岸の家事」を読んだ。

 

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あらすじ

家事を仕事に選んだ専業主婦の詩穂は3歳の娘と2人きりの毎日を過ごしている。自分の家事に誇りを持ちつつ、このままでいいのかな、と悩みながら過ごしていく中で働きながらワンオペ育児で疲弊する母親、育休中のエリート公務員の父親、子供が出来ずプレッシャーをかけられる主婦など、立場は違っても同じ悩みを抱える人たちに出会う。悩める人たちは詩穂に手を差し伸べられ、家事というものが抱える苦しさを解きほぐしながら前に向かって進んでいく。

 

専業主婦の詩穂

おっとりしていて少し世間の諸事情に疎い(大蔵省がなくなったことや専業主婦が珍しいことを知らなかったり)。

のんびりした雰囲気だが隣に住むワーキングマザーの礼子から長期間子供を預かるのを頼まれた時に断ったりするなど、嫌なことはちゃんと断ることができる真の強さもある。


詩穂の専業主婦像を見ると意外だった。

このご時世、自ら専業主婦を選択する人って家事を言い訳に自分が働かない事を正当化して、かつ、人から養ってもらうのが当たり前だと思っているような人だと思っていた。


だけど詩穂は働くのが嫌いじゃない。むしろ、本当は働いた方がいいんじゃないか、と悩んでいるくらいだ。中学生の時に母親を亡くし、父親が全く家事をしないため、学校に通いながら一家の家事を全て担っていた経験から、自分は二つの物事が同時にできない事を悟り、自分の家事を喜んでくれる人に家事をやってあげたいと思うようになった。


詩穂の人物像を見ていると、専業主婦の図々しいイメージがあまり湧いてこない。詩穂は自己分析の結果、自分に向いていて、かつ、やりがいを感じられるのが専業主婦という職業だと理解したのだ。それは自分が大学を卒業した後どこに就職するのか考えている時と同じだった事に気づいた。そう考えると専業主婦っていうのは進学とか就職みたいな一つの進路選択だったんだなと思った


専業主婦だからこそできること

詩穂は以前働かない事に嫌味を言われたのに、仕事と家庭の両立で追い詰められた礼子に対し「どうしたらいいか一緒に考えましょう!」と手を差し伸べる。

また、嫌がらせをしてきた相手にも、周囲は捕まえて罰を与えてやろうとするのに対し、彼女は相手がそうするには何か理由があるからだと考え、その相手まで助けようとする。


それは彼女自身もたくさん悩んできたからこそ、誰もが時には嫌な気持ちが芽生えることを知っていて、だからこそ、そんな時に突き放すのではなく助けてあげたいと思っているからだ。そしてそれは、詩穂が時間に余裕のある専業主婦だからこそできたことだと思う。

 

働いている人は、常に仕事の締切に追われ、隙間を縫って家事や育児をこなしていて自分のことでパンパンになっている。そんな生活をしていたら到底、他人の生活のことを考えたり、他人を赦すことなどなかなかできないのではないか。

 

時間に余裕があれば気持ちに余裕が生まれ、人に優しくできる。少しくらい手を抜いたっていいから、1人で何でもやろうとせずに、ゆっくり考えていけばいい。専業主婦の詩穂がそう教えてくれた。

 

 


専業主婦は家庭の特段の事情がない限り、需要はあまりないかもしれない。だけどお金を稼ぐ事だけが人の価値を決めるものでないことは、この先胸に留めておきたいと思う。