読書感想文

読んだ本の感想を書きます。

「ナミヤ雑貨店の奇蹟」の感想〜人生の相互作用が魅せる面白さ〜

 

ナミヤ雑貨店の奇蹟を読んだ。

文庫本の表紙の雰囲気から読む前までは、子供向けのファンタジー系の小説なのかと思っていたが、読んでみるとファンタジー要素もありつつ結構リアルな人生模様が描かれていて、老若男女楽しめる内容だった。

 

あらすじ

”悪事を働いた3人が逃げ込んだ古い家。そこはかつて悩み相談を請け負っていた雑貨店だった。廃業しているはずの店内に、突然シャッターの郵便口から悩み相談の手紙が落ちてきた。時空を超えて過去から投函されたのか?3人は戸惑いながらも当時の店主・浪矢雄治に代わって返事を書くが…。次第に明らかになる雑貨店の秘密と、ある児童養護施設との関係。悩める人々を救ってきた雑貨店は、最後に再び奇蹟を起こせるか!?”

東野圭吾「ナミヤ雑貨店の奇蹟」(角川文庫)のあらすじより

 

いろんな人生が絡み合って物語が進んでいく

ナミヤ雑貨店の奇跡は各章ごとに、その章の主役となる相談者が登場するが、その相談者達がその章で起こした行動が別の章に登場する、全く関連がないと思っていた別の相談者の人生に大きく影響を及ぼす。

 


例えば、芽が出ないミュージシャン志望の相談者が、出演先の児童養護施設で自作の曲を演奏し、施設のある女の子に褒められる。ある日施設が火事になり、その女の子の弟を火事の中から救い命を落としてしまう。その女の子は、彼への感謝と償いの気持ちを込めて彼の曲を歌って日本の大スターとなる。その大スターは、ナミヤ雑貨店の相談者たちになった3人組の希望の星でもあったことが判明し、彼らの回答に変化をもたらす。


このように、物語の登場人物たちの選択が思わぬかたちで相互作用していくとこで、物語にどんどん厚みを増していくのが読み応えがあった。

 


きっと誰もが誰かのインフルエンサー

たまたまナミヤ雑貨店に迷い込んだ3人はその不思議な空間の中で、過去の時代に生きている相談者たちと手紙のやりとりをするが、その間は現実の時間は止まっていて、相談者たちの人生が動いていく中で当の回答者の3人の人生は止まったままだ。だが、3人が相談者たちと手紙を交わしていき、徐々に3人の人生も動き出すことになる。


また、実際に悩み相談にのっていたナミヤ雑貨店の店主も相談者たちと手紙のやりとりを交わす中で、自分の考えが変わっていったことも明かされている。


自分の人生が他人の人生に影響を与え、また、他人の人生から影響を受けて自分の人生も少しずつ変化していく。そう思うと、インフルエンサーという職業はまさに人生の仕組みそのものなんじゃないか。


自分は何の影響力もない人間だと思っていたとしても、もしかしたら、自分の何気なくした発言・選択で他人の人生に何かしらの影響を与えているかももしれない。例えそれが目に見えなくても、どこかで0が1になっているかもしれない。ナミヤ雑貨店の登場人物たちだって、それぞれ自分がどれだけ人に影響を与えているかはほとんど無自覚だ。

そういう意味で、言葉の厳密な定義は違うかもしれないが、誰もが誰かのインフルエンサーなんじゃないかと思った。